2017/08/6

地崩れは元に戻らない。傷跡が残るだけだ。何かが崩れていく、あるいは崩れていった感覚を幸田文が内面に抱えていたことは確かなのだ。あくまでも厳しく律しられた末に到達した、 さりげない職人技、つましく節約に徹する家事の達人としての女性の姿と内面に抱えた崩壊の感覚、そこには外部と内面、表層と深層の分裂や対立という構図が読み取られる。それは近代人の構図なのだろう。それに比べて平田俊子さんの「揺れるな」は内と外の境界線が曖昧だ。揺れるとはあちらに傾き、振りもどされて、逆に反対の方向へ傾いていくことだから、なるほど、これはポスト・近代だと妙に感心した。