ページトップ

水田宗子

幕間

2017/08/18

弟子と部下による裏切り、同志による裏切り、親族家族による裏切り、恩人への裏切り、友人による裏切り、愛人による裏切り……これらの裏切りのうちでもっとも文学によって表現され続けたのは友情の裏切りで、それが深刻なのは裏切った者への内的な傷、トラウマを残すからで、自滅へと導くからなのだ。「こころ」では裏切られた者(K)が自殺を通して裏切った友人へ復讐をする。裏切った者(先生)は、頼りにした叔父に裏切られた経験から抜け出せないでいたのだが、友人の自殺の後、自分が憤り、憎み、仕返しを願望していた裏切り行為を自分が犯したことから抜け出ることができないままに、自殺をする。友情の裏切りは他の裏切りと比べて、友情が無償の行為であるがゆえに、もっとも深刻な影響を裏切り者の内面に刻むのだろう。友情には何の目的も、利害関係も、恩義もない。したがって、自分の生き残りや欲望と友情を秤にかけることは不純な行為であり、友情と裏切りは根本的に矛盾する。


SNSアカウント