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水田宗子

幕間

2017/08/18

礎石の「虞美人草」は「こころ」とは反対に、女が正面切って男を手玉にとるのだが、男同士の共同体によって罰せられる話だ。ここではホモソーシャルな共同体が法であり、それは同時に人間的な正義の裁きを代表する掟としても機能していて、その両方をかけた自我を持つ女への復讐なのである。裏切りの原因に女の邪悪な自我と欲望、性的魅力(誘惑)があることを明確に描いた物語の典型である。「虞美人草」では自我を持つ女とは、男の価値観に従う女とがいわば黒と白に色分けされて描かれていて、ゴシックなノアール物語と、女性恐怖と嫌悪をディスコースとする物語のフレームワークを共有している。「こころ」は「虞美人草」より後に書かれた、むしろ漱石晩年の作品なので、漱石の女性恐怖への内的な葛藤が形を変えていることがわかるのではないだろうか。


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