ページトップ

水田宗子

幕間

2017/08/17

能劇は敗者の無念を、そのためにさまよい続ける魂の救済を表現舞台の上で成し遂げる物語が主流を占めている。勝者によって語られる歴史のフェイク物語に対する、敗者のさまよえる魂の真実を、その物語を「演じる」、そして観客が「聴く」ことを通して行う文学、宗教劇なのだ。能はアリストテレスの悲劇論の中心を占めるterror and pity,犯罪者や 裏切られた者の恐怖を体現し、その心情に共感するという体験を読者ー観客がすることを目的としている表現なのだ。こう考えると、判官贔屓という表現は、日本文学の特徴であるばかりでなく、世界文学の主流を占めるテーマであり、物語のプロットー筋書きでもあることがわかる。犯罪物語に戻れば、「ゴッドファーザー」はヤクザ物語と共通する法に頼れない者たちの正義を守る裏組織、反体制的組織の物語である。結局は自滅に至るプロットを持つことで犯罪物語一般とそう変わるわけではないが、それが決定的に異なるのは、法に頼れない社会的弱者の正義を、表の法的正義の組織と拮抗する力を持つ裏組織、非合法正義組織ー反体制的組織として弱者の応援団となっていることだ。


SNSアカウント