2005/03/25
出版社:新典社、(2005)
水田 宗子 (著者)
<本の紹介>
1919年から1932年まで東京で生活をし、アバンギャルド文学先行者として作品と才能を
高く評価されながらも突然「行方不明」となり1958年巌谷大四、1960年花田清輝がその
代表作『第七官界彷徨』を取り上げるまで世に知られることなく、1971年故郷の鳥取で
75歳の生涯を閉じた尾崎翠は、死後27年に『定本尾崎翠全集』(筑摩書房)が出版され、
死後30年に浜野佐知監督の映画『尾崎翠を探して』によって紹介された。エドガー・
アラン・ポウの研究者である水田さんは、その3年前から「尾崎翠」を探して山陰の鳥取
へ、また東京の上落合へと旅を続けていた。ポウと尾崎翠を結びつけるものは、少女と
いう主体だと水田さんは見抜く。翠は激しい頭痛を鎮痛剤でだましつつ幻想の中で都市
空間の群衆の中を浮遊し、実際は下宿の一部屋の中でひたすら少女や蘚といった無性的
存在の物語を書いた。死の床での「むごい」という言葉も、世間での活躍の場を奪われた
者の言葉ではなく、未完成の「第七官界」の世界を彷徨する機会を死によって奪われる
無念さであろうとの独自の新しい見方を水田さんは提供している。尾崎翠研究者にとって
不可欠の書である。(YW)